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伝播モデルの選択

はじめに

伝播モデルを使用すると、無線信号が環境を通過する過程における、信号の伝播と減衰を予測できます。関数propagationModelを使用して異なるモデルをシミュレートできます。さらに、関数rangepathlossを使用して,それらのシミュレートしたモデル内の無線信号の範囲とパス損失を特定できます。

以下の節では、各種の伝播モデルとレイ トレーシング モデルについて説明します。各節の表に、関数propagationModelでサポートされるそれぞれのモデルについて、サポートされる周波数範囲、モデルの組み合わせ、および制限の比較を示します。

大気

大気伝播モデルは、距離の関数としてサイト間のパス損失を予測します。これらのモデルは、見通し内 (LOS) 条件を仮定し、地球の曲率、地形、その他の障害物を無視します。

モデル 説明 周波数 組み合わせ 制限
freespace (FreeSpace) 送信機と受信機の間にクリアな見通し線をもつ理想的な伝播モデル 範囲の強制なし rain、fog、gas と組み合わせ可能 見通し線の存在を前提とする
rain (Rain) 無線波信号の伝播と、雨中のパス損失。詳細については、[3]を参照してください。 1 ~ 1000 GHz 任意の伝播モデルと組み合わせ可能 見通し線の存在を前提とする
gas (Gas) 無線波信号の伝播と、酸素と水蒸気によるパス損失。詳細については、[5]を参照してください。 1 ~ 1000 GHz 任意の伝播モデルと組み合わせ可能 見通し線の存在を前提とする
fog (Fog) 無線波信号の伝播と、雲および霧中のパス損失。詳細については、[2]を参照してください。 10 ~ 1000 GHz 任意の伝播モデルと組み合わせ可能 見通し線の存在を前提とする

経験

経験的モデルは、大気伝播モデルと同様に距離の関数としてパス損失を予測します。大気モデルとは異なり、close-in 経験的モデルは見通し外 (NLOS) 条件をサポートします。

モデル 説明 周波数 組み合わせ 制限
close-in (CloseIn) 都市部のマクロ セルのシナリオにおける信号の伝播。詳細については、[1]を参照してください。 範囲の強制なし rain、fog、gas と組み合わせ可能

地形

地形伝播モデルは、伝播が地形スライス上の 2 点間で発生するものと仮定します。これらのモデルは、建物を含む不規則な地形を伴うサイト間のポイントツーポイント パス損失の計算に使用します。

地形モデルは、自由空間損失、地形および障害物回折、地表反射、大気屈折、および対流圏散乱からパス損失を計算します。物理特性と実測データを組み合わせてパス損失の推定が行われます。

モデル 説明 周波数 組み合わせ 制限
longley-rice (LongleyRice) 不規則地形モデル (ITM) とも呼ばれる。詳細については、[4]を参照してください。 20 MHz ~ 20 GHz rain、fog、gas と組み合わせ可能 アンテナ高さは最小 0.5 m、最大 3000 m
tirem (TIREM(Antenna Toolbox)) Terrain Integrated Rough Earth Model™ 1 MHz ~ 1000 GHz rain、fog、gas と組み合わせ可能
  • 外部 TIREM ライブラリへのアクセスが必要

  • アンテナ高さは最大 30000 m

レイトレーシング

レイ トレーシング モデルは、RayTracingオブジェクトで表現され、3 次元環境のジオメトリを使用して伝播パスを計算します[7][8]。それぞれの光線のパス損失と位相シフトは、伝播パスにおける信号の水平偏波と垂直偏波のトレースを含む電磁解析を使用して特定されます。パス損失には自由空間損失と反射損失が含まれます。それぞれの反射について、モデルはフレネル方程式を使用して水平偏波と垂直偏波の損失を計算します。この計算には、入射角と指定された周波数における表面材料の比誘電率および伝導率[5][6]が使用されます。

サポートされる他のモデルは単一の伝播パスを計算するのに対し、レイ トレーシング モデルは複数の伝播パスを計算します。

これらのモデルは、3 次元の屋外環境および屋内環境の両方をサポートしています。

レイ トレーシング手法 説明 周波数 組み合わせ 制限
Shooting and Bounicng Rays (SBR)
  • 最大 10 回のパス反射について、伝播パスの近似計算をサポートします。SBR 法で計算される受信機サイトの位置は正確ではありません。計算される伝播パスの精度はパスが長くなるほど低下します。

  • 計算量は反射の回数に応じて線形的に増加します。結果として、SBR 法の方がイメージ手法よりも一般に高速になります。

100 MHz ~ 100 GHz rain、fog、gas と組み合わせ可能 回折、屈折、散乱の効果は含まれない
イメージ
  • 最大 2 回のパス反射をサポートし、正確な伝播パスを計算します。

  • 計算量は反射の回数に応じて指数的に増加します。

100 MHz ~ 100 GHz rain、fog、gas と組み合わせ可能 回折、屈折、散乱の効果は含まれない

SBR 法

次の図は、送信機 Tx から受信機 Rx までの伝播パスを SBR 法で計算する方法を図解したものです。

Ray tracing reflection and diffraction using the SBR method

SBR 法では、Tx を中心とする測地線球面から多数の光線を発射します。この測地線球面から、モデルはほぼ等間隔に光線を発射できます。

次に、この手法では Tx からのすべての光線をトレースします。反射、回折、屈折、散乱など、光線と周囲のオブジェクトとの間のさまざまな種類の相互作用をモデル化できます。この実装では反射のみを考慮していることに注意してください。

  • 光線が平面 (図の R) に当たると、反射の法則に従って光線が反射します。

  • 光線がエッジ (図の D) に当たると、回折の法則に従って光線から多数の回折光線が発生します[9][10]。それぞれの回折光線の回折エッジに対する角度は入射光線と同じになります。次に、SBR 法では、回折点を新しい発射点として、Tx から発射された光線と同じように回折光線をトレースします。一連の回折光線により、回折エッジを中心とする円錐が形成されます。この円錐を一般に"ケーラー錐"と呼びます[10]。現在の SBR 法の実装ではエッジ回折は考慮していません。

この手法では、発射される各光線について、受信球面と呼ばれる球面で Rx を囲みます。この半径は、発射光線の角距離と光線がたどる距離に比例します。光線が球面と交差すれば、モデルは光線を Tx から Rx までの有効なパスと見なします。

イメージ手法

次の図は、SBR 法と同じ送信機と受信機について、単一の反射光線の伝播パスをイメージ手法で計算する方法を図解したものです。イメージ手法では、平面反射面に対する Tx のイメージ Tx' を特定します。次に、この手法では Tx' と Rx を線分でつなぎます。この線分が平面反射面 (図の R) と交差すれば、Tx から Rx までの有効なパスが存在します。この手法では、これらの手順を再帰的に拡張して複数の反射でパスを調べます。

Ray tracing using the image method

参照

[1]Sun, Shu, Theodore S. Rappaport, Timothy A. Thomas, Amitava Ghosh, Huan C. Nguyen, Istvan Z. Kovacs, Ignacio Rodriguez, Ozge Koymen, and Andrzej Partyka. “Investigation of Prediction Accuracy, Sensitivity, and Parameter Stability of Large-Scale Propagation Path Loss Models for 5G Wireless Communications.” IEEE Transactions on Vehicular Technology 65, no. 5 (May 2016): 2843–60. https://doi.org/10.1109/TVT.2016.2543139.

[2]International Telecommunications Union Radiocommunication Sector. Attenuation due to clouds and fog. Recommendation P.840-6. ITU-R, approved September 30, 2013. https://www.itu.int/rec/R-REC-P.840-6-201309-S/en.

[3]International Telecommunications Union Radiocommunication Sector. Specific attenuation model for rain for use in prediction methods. Recommendation P.838-3. ITU-R, approved March 8, 2005. https://www.itu.int/rec/R-REC-P.838-3-200503-I/en.

[4]Hufford, George A., Anita G. Longley, and William A.Kissick. A Guide to the Use of the ITS Irregular Terrain Model in the Area Prediction Mode. NTIA Report 82-100. National Telecommunications and Information Administration, April 1, 1982.

[5]International Telecommunications Union Radiocommunication Sector. Effects of building materials and structures on radiowave propagation above about 100MHz. Recommendation P.2040-1. ITU-R, approved July 29, 2015. https://www.itu.int/rec/R-REC-P.2040-1-201507-I/en.

[6]International Telecommunications Union Radiocommunication Sector. Electrical characteristics of the surface of the Earth. Recommendation P.527-5. ITU-R, approved August 14, 2019. https://www.itu.int/rec/R-REC-P.527-5-201908-I/en.

[7]Yun, Zhengqing, and Magdy F. Iskander. “Ray Tracing for Radio Propagation Modeling: Principles and Applications.”IEEE Access3 (2015): 1089–1100. https://doi.org/10.1109/ACCESS.2015.2453991.

[8]Schaubach, K.R., N.J. Davis, and T.S. Rappaport. “A Ray Tracing Method for Predicting Path Loss and Delay Spread in Microcellular Environments.” In[1992 Proceedings] Vehicular Technology Society 42nd VTS Conference - Frontiers of Technology, 932–35. Denver, CO, USA: IEEE, 1992. https://doi.org/10.1109/VETEC.1992.245274.

[9]International Telecommunications Union Radiocommunication Sector. Propagation by diffraction. Recommendation P.526-15. ITU-R, approved October 21, 2019. https://www.itu.int/rec/R-REC-P.526-15-201910-I/en.

[10]Keller, Joseph B. “Geometrical Theory of Diffraction.” Journal of the Optical Society of America 52, no. 2 (February 1, 1962): 116. https://doi.org/10.1364/JOSA.52.000116.

参考

関数

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